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今回は2014年3月9日(日)に両国ポパイで行われたビアトークイベント『昼からビアトーク!!!』を観覧してきましたので、そのリポートをお送りします。

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《第三部/第四部レポートはこちら》



今回のイベントはTHE TRANSPORTERさん主催のもので、
お客さんはビールを飲みながらビアスタイルの定義からブリュワーさんからの視点やビアパブさんの視点、インポーターさんの視点や飲み手のお客さんによる視点など沢山のビアトークを聞けます!お題はまだシークレットですが聞くほうのブリュワーさんから飲み手まで楽しめるお題を用意!それに議論する各セレクションの出演者の声が生で聞ける事、そう無いと思います!

という趣旨のもの。





日本のクラフトビール業界のトップランナー達のクロストークが聞ける、またとないイベント。

第五部のテーマは、「クラフトビールの未来」。

弟子入りか独学か…ブルワーになるには。

第五部の中心は「ブルワーさんをどう育てるか?どう育つのか?」という話題に。

「ブルワーさんってどうやってなるの?」「どうやって勉強してるの?」といった雑談のような話題から徐々に確信めいた話題へ。

そもそも日本国内において、ビールづくりを学ぶ為の専門機関は無い(日本酒の杜氏向けの学科はあり、そこで少しは学べる?)らしく、出席されたブルワーの方々も海外の専門書や先人達、もしくは海外のブルワーさんとの交流によって知識の蓄積を得ているのが現状なのだそう。

これを受け、
「吉本興業のNSCみたいに学校作ればいい」 
「海外にはブルワー向けの専門書(バイブル的なもの)があるが日本語のものがないのもブルワーのボトムアップに繋がらない原因」
との提案がされると、海外との状況比較へと話題は進み、
「アメリカはブルワー同士の交流が密接でファミリーの様に仲が良く、技術や情報もオープンで秘密が無い。」(業界全体がビールファミリーである。)
「日本の場合、ブルワリー(醸造所)の協会はあるけど、ブルワー(醸造家)同士の協会がないのはおかしい。」(アメリカにはあるらしい)
というブルワー同士の連携、協力体制の必要性も語られた。


ビール醸造は現代化学的な意味で確立されているので、極端に言えば方程式通り作れば誰でも“ある程度”安定して美味しいビールを造ることができる状況なのだそうだが、こと日本では「クラフトビール醸造学」的な発想が薄いのか、教科書的な意味での書物や記録を残すことも稀で、大半は伝統芸能のように世襲制のようなスタンスで行われているらしい。

この問題の解決は、単純に「ブルワーが講師の役割を担えばいい」ということでもないらしく、「学校を作るのはいいけれど、講師がいない。」「プレイヤー(作り手)はいるけど講師(伝道師)が居ない状況」といった未来への課題としても語られていた。

また、この話の流れとは別だが「ビアフェスなどのイベントに参加することは、ブルワー同士のコミュニケーションの場にもなり、ブルワーとしてのレベルアップにも繋がる。」という意見もあり、横のつながりを積極的に持つことが業界の底上げとしての役割と果たしているらしい。

地ビールブームが下火になった一要因。

1994年のいわゆる「地ビール解禁」から約20年経ったが、その頃の体験談を聞くこともできた。

「地ビールブームの頃は、すごく美味いエールビールを作っている会社も沢山あった。」

この発言の直後、聞き逃すまいと会場の空気が引き締まったように感じた。
当時を知らないオーディエンスの“常識”は「地ビールが廃れたのは商品としてのレベルが低かったから」だったからだろう。

美味いビールだったならば、何故廃れたのか?
その理由としてあげられたのは「メディアの取り上げ方」、そして「解禁直前(1993年頃)に視察で向かった先がドイツだったから」だとされた。

視察を終えた醸造所の方々は、帰国するとヴァイツェンやケルシュなど、いわゆるドイツっぽいビールを造る流れになったらしい。すると当然の如く発信側もメディア側も取材対象が「ビールと言えばドイツ風ビール」に偏ったらしい。

もし視察先がベルギーや英国だったとしたら…、複数国だったとしたら…。夢想することしかできないが、実はこの当時のアメリカでは既にクラフトビールに火が点いており、「ドイツじゃなくアメリカを視察していれば、エールビール(様々なスタイルのビール)にも注目が集まりブームで終わらなかったかもしれない。」との持論も展開された。

日本のクラフトビール業界が向けるべき視点。

「日本のビール業界では、何かというとアメリカに目を向け模範にしようとするが、もっとベルギーなど欧州にも目を向けるべきではないか。」という意見もあった。

この根拠として「アメリカの場合、投資の文化があり、たった数年で大規模な工場を建てたりするので施設なども大規模で参考になりづらい。ならば小規模でのノウハウがある欧州などに目を向けた方が現実的。」という経済・規模的な視点を皮切りに、「アメリカもベルギーなどの模倣から始まっている。アメリカのブルワーはベルギーをリスペクトしてる。」といった歴史的視点まで様々提示された。

また、現状のクラフトビールは「1杯1000円」の価格帯だが、それは「ウイスキーやワインや日本酒など他のアルコールも競争対象」であることを意味する。
利益等は別として、消費者目線としてはクラフトビールもウイスキーもワインも選択肢のひとつでしかない。
その解決策が低価格なのか、品質の向上なのかはわからないが、「ビールの敵はビール」とは限らない。

日本のクラフトビールの特徴とは?

会の最後に「今後目指すべき、日本独自のビアスタイルとは?」という質問が投げかけられた。

酒米、麹、ゆず、出汁…などの原料による差別化もひとつの手段かもしれない、との意見が出たが、ブルワーさん達の意見は共通で「各国のビアスタイルも誰かの意思によるものではなく、歴史によって磨かれ特徴づけられてきたものだと考えられるので、狙って造るものではない。」というものだった。



※当記事は当日のトークを元に、筆者独自の解釈を加え再構築・意訳した実質フィクションです。



【蛇足・雑感】
■「ブルワーになる」為に弟子入り的なプロセスが必要だとすれば、現段階では狭き門なのかもしれません。仮に「大学でビール学やるよー」と募集をかけた場合、「法律的にお酒を飲めない学生が受験するだろうか?」という指摘も上がっていました。日本では、社会人後に大学へ再入学するというのは一般的ではありませんし、発酵学(微生物学)の延長で大学院や専門学校などに期待せざるを得ないのかもしれません。ブルワーさんも初めからビール醸造を目指していた訳ではなく、「発酵」などの分野の進むべき先として醸造を志した例が多いような印象がボクにはあります。
■「日本語の醸造の教科書」ができたとして、公式的にある程度のクオリティのビールはできるかもしれませんが、経験的・職人的な経験を必要とする場面も多く、その辺のノウハウを埋める為の土壌が未成熟なのでしょうね。料理本を読んで、シェフとしてインスタントに自立できるかと言えば別の話であるように。また、単純にブルワーさんに「講師をしろ」と言っても、技術を伝達するにも技術やノウハウが必要であり、一朝一夕ではいかないでしょう。制度が先なのか、意識が先なのかはわかりませんが、未来図への青写真は必要だと感じました。
■アメリカなどではホームブルーイング(自宅醸造)からブルワーとしての独立というルートがありますが、日本では法律的にそうはいきません。極端に言えば「誰でもブルワーになれる権利」を阻害されているともいえるでしょう。
■ボクもクラフトビール以前は特にそうでしたが、一般的に「日本人のイメージする海外ビール」といえばドイツではないでしょうか?これの元はもしかすると1993年の視察がダメ押しだったのかもしれないな、とも思えるお話でした。
■どこか日本人はアメリカ万歳みたいなメンタリティがあるような気がします。それが全てとは言いませんし、ベルギー万歳になるのが正しいとも言いませんが、様々な「師」のルーツを持つブルワーさん達が台頭し、切磋琢磨することでジャパニーズスタイルのクラフトビールが産まれるのかもしれないですね。
■我々の持っていた「地ビールはマズい」という刷り込みは「業界の評価は一番ヘタなものが一般の評価になる。」というパネラーの説明も一要因だったでしょう。
業界全体でのボトムアップが必要な時期なのかもですね。


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