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2021年3月23日(火)「SPRING VALLEY 豊潤<496>」(以下「豊潤496」)が発売され、ビールマニア界隈がどしたのわさわさしてるようですね。

何が話題になっているかというと、大きくは、

■味に特徴が無くて飲んでて面白くないし、また飲みたいとは思えない。 
■キャッチコピー「これぞクラフトビール」が気に入らない。

のように感じます。
理解できないくはないですが、あまり思慮深い意見を見る機会が無く、短絡的な気がしているのでちょっと持論を展開してみようかなー、と久々に筆を取りました。
刺激的なビール=クラフトビール?

「豊潤496は、味に特徴が無く、飲んでて面白くないし、また飲みたいとは思えない」

SNSなどで見かけるネガティブな感想をまとめるとこんな感じではないでしょうか。

この意見の背景には、American IPAのような「ホップの味わいが鮮烈で刺激的なビール」がクラフトビールブーム(第二次地ビールブーム)を牽引してきていることがあるのでしょう。

例えば「Lagunitas IPA」のような刺激的なホップを煮詰めたようなニガニガなビールが爆発的に持て囃されたのがクラフトビールブームの先駆けだと表されたり、BREWDOGの「PUNK IPA」が柑橘っぽいホップ感で話題になったり、はたまたHazyやNew England IPA(NE IPA)のようなのようなホップで濁り切ったビールの登場など、American IPAはクラフトビールブーム(第二次地ビールブーム)を牽引してきました。

そんな刺激過多な土壌の今、味の特徴が少なめな豊潤496が投入されても「なんか違う……」扱いされても然もありなん。

特に歴の長いビールマニアにとっては「刺激的な味こそが俺たちのクラフトビールだ!」くらいの心情があるのかと思います。

(画像は公式ホームページよりキャプチャ)


タップリストの遍歴もIPAと共に

American IPAの人気と裏腹に、English IPAとかビターなどの「紅茶のようなモルティさで落ち着いて飲めるビアスタイル」を店頭などで見かけることは今や稀です。
また、ピルスナーやヴァイツェンなどの伝統的なビアスタイルも同様の傾向にある気がします。(便宜上、以下「トラディショナル」と呼称します)

ボックやクリスマスエールのようなレアさのビールならいざ知らず、クラフトビールブーム初期とされる2013年前後にメジャーとされていたトラディショナルなビアスタイルですら、Hazy/NEが出始めた2017年頃には「珍しい扱い」されていた風潮があったことは否めません。

2021年現在、お店のタップメニューが全てIPAと言われても仕方がない状況でもあります。特にIPA専門店と謳っていなくても、です。
全て、ではなくとも、5タップのうち3〜4タップはIPA常設と聞いても不思議がらないのではないでしょうか。

2013年頃の5タップと言えば「ピルスナー、ペールエールやIPA、白いビール、黒いビール、フルーツなどの副原料を使ったビール」を軸に考えるメニューラインナップが定番でした。
その状況がIPA一辺倒になってしまうほどに市民権を獲得しているのですから、「刺激」を軸に味の判断をされてしまうのも仕方ないのかもしれません。


刺激の足りないビールは飲む人を選ぶ?

豊潤496は、IPAなどのような刺激的な味わいではなく、トラディショナルに近い大人しめな味わいのビールだと思います。

「刺激のあるビール」がビールマニア的に求められているとすれば、味の尖っていない豊潤496はストライクではないのでしょう。
逆にIPAなどよりも、トラディショナルなビールを求める層には刺さる気がします。

と、ここでひとつの仮説があります。
IPAが基準の時代となった今、もしかするとトラディショナル寄りのビールを味わう方法を「知らない・忘れてしまった」人たちが増えている可能性はないでしょうか。

必ずしも万人に必要な体験ではないですが、ビール好きを自称するならば一考の余地はあるかと思います。

豊潤496はどんなビール?

「豊潤496が、どんな味か覚えていますか?」

知り合いのビールマニアと出会った時、こんなことを聞いています。

多くの返答は「ぼんやりしてて覚えてない」「ピンとこなかった」のようなニュアンスが多いです。(個人調べ)
この質問に明確に「なるほど」と膝を打つような回答ができる人は相当凄いと思います。ですが、SNSの感想を含めても、今のところ存在していません。販売開始から1ヶ月経つんですけどね。

ここまで味に対して曖昧な回答しか返ってこないビールは、豊潤496以外に無いかもしれません。

通常、他のビールの感想を聞くと「ホップが柑橘系で〜」「副原料の味わいが顕著で〜」などなど、味について感想が引き出されます。
銘柄はなんでもいいですが、IPAなどを中心とする刺激的なビールの味を表現することは容易なのです。

そんな中、豊潤496は、味の評価が明瞭で無いのに「まずい」と評されることがほぼない。

「何が美味いのか、何が不味かったのか……、よくわからないけど、何となく口に合わない」

この評価こそ、豊潤496の怖ろしさではないでしょうか。

すなわち、味が無個性というよりは、尖った点が見当たらない恐ろしく平均点の高いビールではないかと思っています。



さらに蛇足気味ながら、もう一点。 

豊潤496は、食事とビールそれぞれの味が互いに遠慮することなく、それぞれの持ち味を壊さないビールではないかと考えています。

ビールでのマリアージュとかペアリングとか、正直意味わかんないんですけど、このことに気がついてから豊潤496と何か料理を食べ合わせてみたいと思うようになりました。

いろいろと実験中ではありますが、例えば刺身を食べた直後にビールを飲むと生臭さが倍増した経験はないでしょうか?
個人的にはピルスナーに限らず(ピルスナーは顕著ですが)、ほとんどのビールは相性が悪いと思っています。(明らかに日本酒やレモンサワー、炭酸水の方が食中飲料として向いている)

しかし、豊潤496は刺身もビールもちゃんとそれぞれの味がするのです。

食べ合わせのサンプル数がまだ少ないので確かなことは言えませんが、多くのクセのある食材と合わせたいビールです。これも他のビールにはなかったことです。

このあたり496の評価については、上記twitterのスレッドなどで更新しているのでご一読ください。

日本におけるクラフトビールの定義

(画像は公式ホームページよりキャプチャ)


豊潤496のキャッチコピーは「これぞ、クラフトビール。」です。

SNSなどでは「クラフトビール」という単語が使われたことに対し、気に食わないと拗ねているビールマニアが多いように感じています。

「クラフトビールの定義に大手は入っていない」との声を聞きますが、2021年の今でもそんなことを言っている人たちがいることに驚いています。これは自分も含めたメディア側の功罪でもありますね。

そもそも日本における「クラフトビール」に定義はありません。

過去に何度か「定義をしよう」という動きは各方面であったと思いますが「結局定着しなかった」という背景もあります。

ちなみにヤッホーブルーイングさん的には「小規模な醸造所がつくる多様で個性的なビール」と言っているようです。(動画の中でも「日本では明確な定義は無い」と言っていますね)



「クラフトビールの定義」に関して気になる方は、下記の記事もご参考ください。

「クラフトビールの定義」を人質にするな

「クラフトビールの定義」が玉虫色になる理由のひとつにポジショントークがあります。

その1
【アメリカのCraft Beerの引用】
小規模かつ、大手の息のかかっていない醸造所で、伝統的な技法のビールを造れる能力を持っていること。

その2
【醸造:醸造・販売を通した情熱や思考】
造り手の思いをビールに込めること。ビールにメッセージがあること。多様性があること。など。

その3
【消費者・飲み手:ビールを通じた体験や感情】


この3パターンくらいに集約できる気がします。(※その2、その3の具体的な内容には、賛否あると思います)

豊潤496の「これぞ、クラフトビール。」が気に入らない、という層は「大手のくせに」というのが論拠と思います。
これは「その1」にあたりますが、日本ではなくアメリカの定義なのであまり説得力がないように感じます。

「その3にも、大手ではないことが入るんだよ!」とか言われそうですけど客観的根拠としては弱いと思います。
以前、2014年頃に一部のマニアが否定的な意味で使っていた「Crafty(クラフティ):大手が造るクラフトビール風ビール(と揶揄する言葉)」の影響なのかもですが、ここ数年使ってる人はほぼいなかったと思いますし、おそらく定着していない死語扱いになっていると思います。
つまり、世の中の多くは「大手だってクラフトビールでいいじゃん」と暗に認めていた証明ではないでしょうか。

今回の場合、飲み手が「クラフトビールの定義」言い出すなら「その3」で語るべきと思いますが、ネット上に溢れる真っ当な意見の多くはマニア以外の一般消費者が多いように感じられます。
クラフトビールマニアの意見は、まるで「その1」が日本にも適合するかのように論理を展開したり、全てをごちゃまぜにするから訳わからん状態になってる風潮があるように感じます。

評価の先にあるもの

個人的にクラフトビールに求めるのは「ビールの概念を壊してくれる体験」なので、大手だろうが小規模だろうがノンアルだろうが美味けりゃ全てウェルカムです。

いずれ「クラフトビールの定義」に拘ってるのは無意味ですし、「大手がクラフト名乗るな」と論拠の無い謎理論を展開し、坊主憎けりゃ袈裟まで憎いのノリで、味まで真っ当に感じることを拒否している人がいたとしたら非常に残念ですよね。

豊潤496は今後も進化すると公言されていますので、もし今回のバッヂが好みでなかったとしても、この進化を楽しむことまで放棄してしまうのはもったいない気がします。

◆永遠に完成しないブルワリー「スプリングバレー」
これまで多くの方々に支えられてきたスプリングバレーはようやく日常的に手に入るようなブランドのスタートラインに立つことができました。

「SPRING VALLEY 豊潤<496>」の発売はスプリングバレー創業以来実施してきた様々なチャレンジの1つであり、ゴールではありません。


「平均的な味のビール」がチャートのオール3だとすると、豊潤496はオール5みたいな印象。
全方向にこれまで以上の味を上乗せできることが示されてしまったので、以降のビールの平均点・基準点も引き上げられたビール業界のシンギュラリティなのかもしれないとすら思っています。

久々にワクワクする気分を味わえたこのビールにしばらく注目するつもりです。

最後にひとこと。

「あなたにとってのクラフトビールとは、なんですか?」

〔おわり〕

[2021/04/25記]





【関連記事】
「びーる」と「クラフトビール」と「地ビール」の話。〔ゆるびー。#1〕


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